2025年版:居酒屋・和食店における日本酒提供の進化と顧客満足度向上
株式会社ハイルが2025年6月10日~12日、業態歴3年以上の居酒屋・和食店経営者、店長、料理長510名を対象に実施したインターネット調査「提供する日本酒の価値」に関する調査結果から、日本酒提供における現状と顧客満足度向上への取り組みを報告します。
日本酒提供の現状:種類と顧客満足度向上施策
調査によると、日本酒の種類は「10~20種類未満」が26.7%と最も多く、約半数の店舗が20種類程度の日本酒を提供していることが分かりました。一方で、「60種類以上」という店舗も存在し、日本酒のラインナップは店舗の戦略によって大きく異なることが示唆されています。
顧客に日本酒を楽しんでもらうための施策として、「限定・希少銘柄の導入(46.9%)」が最も多く、話題性や希少性を重視する傾向が明らかになりました。「スタッフによる丁寧な説明・接客(41.6%)」や「蔵元との関係性を活かした直送仕入れ(39.0%)」も高い割合を占め、単なる銘柄の提供ではなく、お酒の背景や造り手の思いを伝えることで顧客体験の向上を目指している店舗が多いことが分かります。
飲食店が伝えたい日本酒の魅力
飲食店側が顧客にもっと知ってほしい日本酒の魅力として、「香りや味わいの繊細さ・奥深さ(38.4%)」、「冷・常温・燗など温度によって味が大きく変化すること(34.5%)」、「料理との相性(ペアリング)の幅広さ(32.2%)」が上位にランクインしました。
これらの結果から、飲食店は日本酒の繊細な味わい、温度変化による風味の変化、料理との幅広いペアリングなど、単なる味覚体験を超えた「奥行き」を顧客に伝えたいと考えていることが明らかになりました。 精米歩合や造り手のこだわり、産地ごとの個性といった製造過程や背景にも注目が集まっており、「日本酒のストーリー」全体を伝えようとする意識が伺えます。
プロがおすすめする日本酒銘柄とその理由
調査では、飲食店関係者におすすめの日本酒銘柄を尋ねたところ、「久保田」、「獺祭」、「越乃寒梅」、「十四代」、「高清水」などが挙げられました。希少酒が多く選ばれていることが特徴です。
おすすめ理由として、「味・香りが非常に優れているから(51.0%)」が最も多く、風味の完成度や飲み心地の良さが高く評価されていることが分かります。「どんな料理とも合わせやすく汎用性が高いから(40.4%)」、「料理との特定のペアリングで真価を発揮するから(32.8%)」も上位にランクインし、単独での味わいだけでなく、料理との組み合わせも重要な評価軸となっていることが示されています。
日本酒仕入れにおける課題:供給の不安定さと価格
一方で、日本酒仕入れにおいては課題も存在します。「仕入れを断念したことのある日本酒」として「十四代(28.2%)」、「信州亀齢(21.4%)」、「花邑(19.6%)」が上位に挙がりました。これらは知名度や人気が高い銘柄であり、仕入れ競争の激しさを示しています。
仕入れ断念の理由は「安定供給が難しいと判断した(38.5%)」、「価格が高く、原価に見合わなかった(36.3%)」、「仕入れルートが確保できなかった(33.3%)」が上位を占め、供給の不安定さや価格、仕入れルートの確保が大きな障壁となっていることが明らかになりました。 保存や温度管理といった運用上の課題も指摘されており、魅力的な銘柄であっても、それを運用できる体制がなければ扱えないという現実が浮き彫りになりました。
料理とのペアリングと顧客満足度
顧客から「料理と合うお酒を教えてほしい」というリクエストは、「よくある(32.2%)」、「たまにある(56.9%)」と回答した店舗が約9割を占め、料理と日本酒のペアリングに対する顧客の関心の高さが伺えます。
しかし、「料理やお酒の内容が変わっても、その都度適切なペアリング提案ができるスタッフの人数」は「1~2人(52.7%)」、「3~4人(31.9%)」と、ペアリング提案可能な人材は限られています。 ペアリング提案の属人化が課題となっています。
一方で、「ペアリングを訴求することは、顧客満足にどの程度貢献していると感じるか」という問いに対して、「非常に貢献している(25.3%)」、「ある程度貢献している(54.2%)」と回答した店舗は約8割に及び、ペアリングが顧客満足に大きく貢献していることが明らかになりました。 ペアリングは単なる味の相性だけでなく、記憶に残る体験価値として評価されていると言えるでしょう。
まとめ:体験価値としての日本酒
本調査により、日本酒は単なる商品ではなく、「体験価値を伴う商品」として飲食店にとって重要な役割を果たしていることが改めて示されました。 希少性、丁寧な説明、料理とのペアリング、蔵元のストーリーなど、多角的なアプローチによる顧客満足度向上への取り組みが重要視されています。 しかしながら、日本酒の仕入れにおける課題や、ペアリング提案における人材不足も浮き彫りになり、今後の改善が求められています。 顧客は日本酒の「味」だけでなく、「体験」を求めていると言えるでしょう。
株式会社ハイルと居酒屋『涛司(とうじ)』
本調査を実施した株式会社ハイルは、神奈川県鎌倉市に居酒屋『涛司(とうじ)』を運営しています。『涛司』では、30種類以上の日本酒を常備し、料理とのペアリングを提案しています。 2025年6月7日~30日には、十四代、而今、新政など希少酒を含む日本酒35種類の飲み放題プランも実施しています。
